拓殖のあと

はてなダイアリーから引き継ぎました。(2018年8月31日)

Exterminate All the Brutes

「日本の『闇の奥』」という論文がもうすぐ活字になるんですけど、その冒頭でSven Lindqvist, 'Exterminate All the Brutes' (London: Granta Books, 1996)というスウェーデン人の旅行記作家の本を引用しました。

Exterminate All the Brutes

Exterminate All the Brutes

分かる人は分かるだろうけど、このタイトル、コンラッドの『闇の奥』からとられてます。「暗黒大陸」(アフリカを昔の西欧人はこう呼びました)に文明の光をもたらし、当地で行われている「蛮習」についての報告書を書いていたクルツは、その最後に「すべからく奴ら野獣を抹殺せよ!」と書き残してしまう、というくだりですね。
この衝撃的な言葉を引用したリンドクヴィストさんは、『闇の奥』に描かれているようなあくどい西欧植民地主義と、植民地住民に対して行った残虐行為こそ、ナチによるユダヤ人大量虐殺を生んだのだと主張します。そのため、最近の文化研究者ばりに、『闇の奥』周辺のテクスト・コンテクストを徹底的に調べ、両者の関係を語ります。この一種の文化・歴史研究は、彼自身の北アフリカ旅行記と併置され、両者は絡み合いつつ語りは終わる。
この本は、1997年にイングランドコルチェスターの本屋で、Janet Winterson, Guts Symmetryという小説と一緒に買ったんです。僕自身『闇の奥』にこだわっていたので、むさぼり読みました。これはスウェーデン語からの英訳ということもあって、とても読みやすい。これも翻訳してもいい本だと思うけど、いい日本語で翻訳してもらいたいな。

注記(2006年3月12日)
Lindqvistはその後以下の本を上梓している。

A History of Bombing

A History of Bombing

Desert Divers

Desert Divers

Bench Press

Bench Press

いずれもGranta Books。いずれきちんと読んで論じたい詩人である。