拓殖のあと

はてなダイアリーから引き継ぎました。(2018年8月31日)

畜大獣医の移転問題

昨日から『十勝毎日新聞』をとりはじめた。地方紙の良いところは身近な問題が掲載されていること。僕にとっては面白い記事が多い。ところで、面白いどころではない重要な記事が今日の「勝毎」にあった。「畜大獣医学科の行方は?」と題して、二面と三面を使った気合いの特集だ。昨年末畜大で講演した東大の唐木教授へのインタビューもある。畜大の獣医の移転問題は、十勝の人たちにとっては深刻な問題だ。獣医っていうのは畜大のraison d'etreみたいなところがあり、(伝説によれば佐々木倫子の『動物のお医者さん』を読んで感動した)学生さんも獣医があるから受験するのである。獣医が東北大や北大に移転しちまったら、それは畜大の存亡に直結する。で、十勝には他に大学がないのである。たかだか人口18万人に満たない地方都市に(国立)大学なんて必要ないとおっしゃる方もいるかもしれないが、音更町芽室町などの隣接地域をあわせると30万人近くになるわけで、そういう地域から四年制大学が完全に消滅するってのはヤバイと思う。ちなみに旭川市(約35万人)には北海道教育大学旭川分校、旭川医科大学旭川大学北海道東海大学などなど、結構数はある。函館市(約30万人)には道教大函館分校、北大水産学部函館大学、それから近隣の町村と協力して作ったはこだて未来大学がある。釧路市(約20万人)にだって道教大釧路分校と釧路公立大学があるんだからね。
あくまで個人的意見だが――、獣医が畜大にとどまる可能性は高いとは言えない。実際、畜大では規模が小さすぎるし、外堀も埋められつつあるという感触もある(詳細は勘弁してね)。つまり、「帯広畜産大学」という看板が変わる可能性も決して低くない。このとき、この小さな、しかしそれなりに愛すべき地方国立大学がどのような形で存続してゆくのか(あるいは廃止になるのか――ただ国立大学を廃止するのは法律改正が絡むからこれは国政レヴェルでの闘争になる)、それはまだ分からない。これは、僕もその一員である大学教員だけではなく、十勝の人々が一緒に考えるべきことだと思う。負担者も受益者も彼ら/彼女らなのだから。「帯広公立大学」?「(私立)帯広大学」?「十勝大学」?ホント、一体どうなるんだろうな。いきなり人文系の大学に生まれ変わるのか(しかし、「官立民営」という形で帯広大谷短大が四大に昇格して人文系の高等教育機関としての使命を担うという話もあった/ある)、それとも今まで以上に「農業」を充実させ、十勝という地域に密着した大学になるのか。*1
「勝毎」の記事を読みながら、こんなことを徒然考えていると、死んだ親父の事を思い出した。僕の親父は留萌市の北にある羽幌町にあった拓銀の支店にいたことがある。羽幌っていうのは、漁業の街というよりは、炭坑の街だった。で、親父がなぜ羽幌に転勤になったかというと、どうやら羽幌炭坑の閉山にあわせて拓銀も羽幌から撤退する、つまりはしんがりを勤めよ、ということだったらしい。大都市に住む人には分からないだろうが、羽幌のような小さな街から都市銀行が撤退するというのは、これは驚天動地の衝撃なのである。羽幌を見捨てるのか!と親父も散々罵倒されたそうだ。結局親父は羽幌支店を無事に閉鎖する事に成功した。のちになって、親父は、この体験はつらかったけれども非常に勉強になったとよく語ってくれた。
どうも僕も同じような経験をすることになりそうなのである。千載一遇の機会?修羅場?なんだから、色々苦労して勉強させてもらいましょう。

*1:結局、獣医は畜大に残り、北大農学部に吸収されもせず、「帯広畜産大学」単独で出来るところまで生き残りを試みるということになった。ただし、帯広に地元の子供たちが入れる四大を!という声はまだあって、しかし実現はしていない。たぶん無理だろう。[2006年3月14日]