拓殖のあと

はてなダイアリーから引き継ぎました。(2018年8月31日)

河盛さんのこと

フランス文学者の河盛好蔵さんが亡くなった。97歳というから大往生である。
僕は英文学専攻なのだけれど、河盛さんの名前には注意している。コンラッド『闇の奥』について論文を書いた時、アンドレ・ジッド『コンゴ紀行』についても触れたが、この紀行文の翻訳者が河盛さんだった。
コンゴ紀行』はフランス植民地主義糾弾の書として有名だけれど、これが戦前の日本では日本植民地主義の正当化につかわれたのである。ほら、ジッドが書いているけれど、フランス(西洋)は極悪非道なのだ。日本はマシなのだ――というように。ところで、河盛さんは翻訳を出した時点では格別(日本)植民地主義について発言していなかったけれど、昨今の新保守主義の高まりのなかで、かつて日本植民地主義の正当化に使われた自分の訳書と同じ運命をたどっていったようである。
鵜飼哲さんのような人たちには、こういう問題をはっきり言ってもらいたいと期待している。たぶん何か言うだろうとは思うのだけれど。
追記 『週刊金曜日』提供の「新しい歴史教科書をつくる会」の呼びかけ人・賛同者名簿はこちら。「河盛好蔵」の名前がある。このリストは一読の価値あり。