拓殖のあと

はてなダイアリーから引き継ぎました。(2018年8月31日)

空想の森映画祭

日曜日、友人の車で「空想の森映画祭」なるイベントに行ってきた。新得町新内といっても分からない人が多いだろうが、十勝側から狩勝峠を登る直前、サホロ・リゾートの直下である。開拓の里である。この新内の開拓農家の井上さんの倉庫を「豊之進劇場」として利用しようというイベントなのである。日曜日は初日で、メインの映画は今週末ということだった。
早速観たのは『森と水のゆめ--Nature in Perpetual Motion』なるドキュメンタリー映画。劇場の名前になっている井上豊之進さんという76歳の開拓農家の方が、シマフクロウの住む原生林を探しにきた女性をトムラウシ山麓へと案内する。後半は雄大な自然と病める文明(これは十勝大橋が映っていた)という対立軸が強調される。トムラウシ山麓の森やお花畑の映像には観るべきものがあったけれど、正直なところ、テーマ設定には新味がなかった。トムラウシを全然知らない「内地」の人には新鮮かもしれない。当日の説明では、この映画はインドのムンバイ国際映画祭のコンペに出品されたとのこと、どうやらなかなかの評価を受けたようだ。やはり、「道外」で観るべき、ということだろう。
ところで、私としては、自然対文明というテーマの引き立て役にしかなっていなかった井上豊之進という開拓農家の話をもっと聞きたかった。映画では、この人は自然と文明の調和を体現する人物として登場していた。しかしシマフクロウの森を破壊したダム、林道、そして牧草地、これは「開拓」の延長線上にある事業ではないのか。むろん井上さんは「開拓」が「開発」になることを批判しておられたのだろうが、だからといって「開拓」が「開発」と無関係ではないだろう。開発批判者は批判すべき開発と無縁ではないかもしれない。このあたりのやっかいな問題を、たとえば井上さんはどう考えておられたのだろうか。残念ながら井上さんはすでに故人である。
この映画祭には若い人々も参加して、自主映画を制作しようと活動しているようだったので、井上さんのような人々の経験や歴史を掬い取るような映画ができてこないかなと思っている。*1

*1:この映画祭は地味にしかし着実に年月と成果を積み重ねている。開拓地の廃校や農家の倉庫を使った手作りの映画蔡だから、金はあまりなくとも人がいれば続くんだよな。http://kuusounomori.com/ [2006/07/14]