拓殖のあと

はてなダイアリーから引き継ぎました。(2018年8月31日)

ある医師の決意

昨晩は今年度の院生研究会の打ち上げで飲み会。たのしい飲み会でした。
そして今日は一限目から授業。眠いよ。
二限目は村上春樹『羊』の3回目となる。
前回は北進論の系譜をふまえつつ、「羊(博士)」と「満州」との関係を、『北海道緬羊史』のような資料をつかって探るという作業をやってみた。この小説は一面で歴史小説である、ただその歴史は東京中心の歴史ではその意義が見えにくいというだけだ云々。
今日は、「満州」と「アイヌ」とをつないでみる。主役はジンギスカン義経説の立役者、小谷部全一郎。なぜこの珍説とアイヌが?との疑問には、帯広時代に某氏に教えてもらったこの名著が答えてくれる。

偽史冒険世界―カルト本の百年 (ちくま文庫)

偽史冒険世界―カルト本の百年 (ちくま文庫)

この御仁、ジンギスカン義経説を信奉するあまり関東軍ともただならぬ関係を持つようになったともいわれているのだが(「羊博士」のようだ)、他方、貧乏時代に助けてもらったアイヌのために粉骨砕身、悪名高い旧土人保護法を修正する運動をやったり、アイヌのための学校を作ったりして、若い頃の金田一京助を感涙させたという人。この人の経歴と北進論とを絡めると、あの『十二滝町史』に出てくるアイヌ青年のエピソードが興味深く読めてくるというのが今日のネタ。
(ところで、この架空の『十二滝町史』〔出版は1970年という設定〕、「僕」の説明では、アイヌ青年のエピソードにずいぶんページを割いているようだが、私が知る限り、1970年前後に出された北海道の市町村史でアイヌの「個人」のエピソードにこんなにページを割いている本なぞないはずである。)

・・・ということを考えつつ、昨晩、2時頃まで予習のため長山本を再読(再再読?)していたのだが、あらためて「あとがき」の痛切さにちょっと考え込んだ。
この本の初版は1996年なのだが、やはりオウム真理教事件無期懲役になったH医師の話と、それからつくばで起きたN医師の妻子殺人事件がつよく意識されている。この長山さんも医師なのだが、特にエリートだったH医師がトンデモ宗教に走ってしまった理由(他者との対話の欠如が一番大きな問題となる)を解明し、そしてそれをいわば笑い飛ばす(といっても苦い笑いだが)のだという覚悟が感じ取れる。
ただ、最近の長山さんは少し濫作気味。ちょっと残念である。